超人と天使はマイナス百度でも死なないが、人間はそうはいかない。今年の冬季は格別冷え込んだ。人間は凍傷(とうしょう)に悩まされ、悪天候下の行軍(こうぐん)は労苦(ろうく)の連続であった。神軍の戦意は衰えざるを得なくなったのである。
 デーモンは、
「今こそ決戦の秋(とき)」
 と感知(かんち)し、七月中旬、スチュアート島に大攻勢(だいこうせい)を行った。シヴァ軍は徹底(てってい)抗戦(こうせん)したものの、島を守りきれなくなり、人間兵士の九割以上が戦死或いは虜(とりこ)になる惨敗(ざんぱい)を喫(きっ)し、南島へと後退したのだった。
 スチュアート島を確保した超人軍は、東進(とうしん)してチャタム諸島を攻略、シヴァ軍が堅守(けんしゅ)する南島を避けて、北島のアモン軍に、連日の空爆(くうばく)を敢行(かんこう)した。
 一方オーストラリアでもゼノン麾下(きか)の超人軍は、神軍エホバ軍を撃攘(げきじょう)しつつあった。厳冬(げんとう)が超人軍にとって最大の味方だった。八月にはエホバ軍は攻討(こうとう)され、北島のアモン軍も南島へと撤退(てったい)したのである。

 南極はこれらの勝報(しょうほう)に、沸(わ)き返っていた。デーモンは袋(ふくろ)の鼠(ねずみ)となった南島に対しては、持久戦(じきゅうせん)の方針を採(と)った。シヴァ軍団の強固(きょうこ)さを素直に認め、戦死者の増大を防止する心算(つもり)であった。

 超人軍がオーストラリアを制圧し、ニュージーランドもほぼ手中(しゅちゅう)に収めつつある。然(しか)もアメリカ、アフリカ戦線も一進一退、という劣勢(れっせい)に、神界(しんかい)は混乱(こんらん)していた。
 ゼウスは神に戦局打開の方策(ほうさく)を求(きゅう)心(しん)するしか、手立(てだ)てが無かった。神はゼウスに、
「神命により、戦争を中止せよ」
 と勧告(かんこく)した。ゼウスはアッラーを特使として、南極へ遣(つか)わしたのだった。