「ビーナス」
「はい」
「何なら君を同行して、シヴァに引き渡しても良い」
 ビーナスは吐息(といき)した。
「私は貴方の妻です」
「有難う」
「お帰りを、お待ちしています」
「うん」
 ビーナスは、幸福だった。心からの再会を約して、二天使は別離(べつり)したのだった。
 二日後、デーモンの英姿(えいし)はグニダール軍の前線基地、現地名オークランド諸島の孤島(ことう)にあった。グニダール軍は南島に隣接(りんせつ)するスチュアート島征服を目指していたが、島を守備するシヴァ軍団副将ヴィシュヌの変幻(へんげん)自在(じざい)な戦法に、翻弄(ほんろう)されている有様(ありさま)である。
 デーモンは、水平線彼方(かなた)のスチュアート島占拠こそニュージーランド戦の天王山(てんのうざん)と見、オーストラリア軍と共同して、難攻不落(なんこうふらく)のこの嶋に攻入る軍略(ぐんりゃく)を立てた。
「シヴァ軍団を一致(いっち)協力(きょうりょく)して破りさえすれば、ニュージーランド制覇(せいは)の突破(とっぱ)口(こう)は開かれる」
 とデーモンは判断したのである。

 スチュアート島攻防戦を陣頭(じんとう)指揮したのは、デーモンである。四月初旬、超人軍は大挙して島に攻込(せめこ)んだ。神軍もシヴァ自らスチュアート島にやって来て、両軍の壮烈(そうれつ)なバトルが展開されたのだった。
 同時期、防備(ぼうび)が手薄(てうす)になったオーストラリアを、エホバ率いる神軍天使部隊が奇襲(きしゅう)した。サタンはオーストラリアを死守すべく、南極軍本隊最高の精鋭隊(超人軍の中から選抜(せんばつ)されたエリート部隊である)ヴェーダにゼノン配下(はいか)としての出動を命じ、ゼノンに出撃命令を発したのである。ゼノンは即刻(そっこく)緊急(きんきゅう)発進(はっしん)し、豪州援軍(えんぐん)に馳(は)せ参じた。
 オーストラリア、ニュージーランドにおける両軍の激闘(げきとう)は果てし無く続いた。決着のつかぬまま冬に入り、全四戦線の戦況(せんきょう)は俄(にわか)に鈍ったのである。
 積雪(せきせつ)は、神軍に打撃を与えた。