「私に、神軍を裏切れ、と言うのね」
「君の為だ。この儘では近い将来、君はミンチになってしまう。それがどんなに辛苦(しんく)を伴う所業(しょぎょう)か。君には味合わせたくない痛苦(つうく)だ。一番確実に君を救出できるのは、私と一になることだが。今は敵か味方かはっきりせねば、敵となる時勢なんだ。分かってくれ」
 ほの暗い囚室(しゅうしつ)に、重苦しい雰囲気(ふんいき)が漂(ただよ)う。
 四五分後苦悲(くひ)の海から抜け出す様に、ビーナスが開口した。
「私も肉片には、なりたくない」
「形だけでいい。妻になって欲しい。君への愛情は天地神明に誓って本物だ」
 ビーナスはもう監房暮しに、うんざりしていた。
「此処から脱出できるのなら」
 と願望したとしても、ビーナスを批難(ひなん)できない。それにデーモンの愛には、誠があった。ビーナスもデーモンを嫌怨(けんえん)してはいない。未だに愛情を捨てきれずにいるのだ。ビーナスはデーモンの言質(げんち)を信頼し、その身をデーモンに預ける決意をした。

 デーモンとビーナスの質素(しっそ)な結婚式が挙行されたのは、西暦二月の晦日(みそか)だった。出席者はサタン、ゼノン等極(ごく)僅(わず)かな超人王国高官達である。
 翌日、ニュージーランド征討(せいとう)がスタートした。天候は快晴(かいせい)で、アフロンとグニダールは、北と南から総進撃(そうしんげき)を仕掛(しか)けたのだった。