最早(もはや)討議(とうぎ)すべき事項(じこう)は、消化されていた。ただ明日火蓋(ひぶた)を切るかもしれない対神戦争について、サタンが決意を表明(ひょうめい)しただけである。
「運を私に預けよ。そして、玉砕(ぎょくさい)あるのみ!」
 サタンの決死の口吻(こうふん)に、ゲルス第一軍司令官、アフロン第二軍司令官、グニダール第三軍司令官、ザーリッツ第四軍司令官は、
「南極死守」
 を肝(きも)に銘(めい)じて、任地に去っていった。
 サタンが四司令官を送り出した後、ゼノンが意外な事を喋(しゃべ)り始めた。
「サタン様。実は私は先日北極に密行(みっこう)し、デーモン様の肉片を全て回収して参りました」
「そうか」
 サタンは喜笑(きしょう)している。
「これが、デーモン様です」
 ゼノンが百の肉(にく)塊(かい)を、差し出した。グロテスクなミンチが解氷(かいひょう)されて、地べたに山積みにされている。
 サタンはデーモンの透(す)き通るような美(び)白(はく)の肌、美形を記憶している。デーモンは十三天使中最高の資質(ししつ)に恵まれ、リーダーと目(もく)されていた。デーモンの変わり果てた姿体(したい)に、サタンはたんわんした。
「よし。二日の内に、何とかデーモンを復活させよう」
「宜しくお願い致します」
 デーモンの加入は、超人軍にとって何よりの戦力アップに繋(つな)がるだろう。
 恐竜戦争の際デーモンは、変幻(へんげん)自在(じざい)な戦法を駆使した。神軍は後退を余儀(よぎ)なくされ、恐竜軍が有力だった一時期が有る。最終的には兵力の格差(かくさ)と、恐竜に理性が欠乏(けつぼう)していたのが主因(しゅいん)で、デーモンは敗軍の将となった。デーモンの軍(ぐん)才(さい)が尋常(じんじょう)ではないのは、敵方(てきがた)であったサタンが体験から知り抜いている。
 サタンは明後日の日の出までに、デーモンを蘇生(そせい)させたかった。洞穴(どうけつ)に篭(こも)り、大手術を施(ほどこ)さねばならない。オペの執刀(しっとう)ができるのは、超人軍内ではサタンのみであったからだ。