しかしながら、青年は怯
むことなく話を続けた。


「――確か貴女は、かの
有名なウィルヘルム家の
ご令嬢だと伺いました」

「……だから何?」

「“ウィルヘルム家”と
いえば芸術、特に絵画や
音楽に秀でた方を次々と
世に送り出した伝統ある
名家ではありませんか」


先程までとは一変して、
頼りなさを微塵も感じさ
せない物言いに、少女は
思わず双眸を見開いた。


「どうして、そのような
誇り高きお家柄で生まれ
育ったはずの貴女が幾度
となく罪を重ねているの
ですか?何か理由がある
のではないですか?」


そうして当分の間青年の
真剣な眼差しと対峙する
うちに、少女の中である
感情が沸き起こった。




ぷっ、アハハハハハハハ




突然すぎる盛大な上戸を
前にして、彼らは呆気に
とられる羽目になった。


「ふふ……面白いねぇ。
じゃあ今回だけは、この
坊やに免じて“特別に”
話してあげようか」


その後徐々に落ち着きを
取り戻すと、少女はちら
りと男を横目に入れた。


「せいぜい部下に感謝す
るんだね。アンタが相手
なら、私は一生口を開く
つもりはなかったよ……
このク・ソ・狸が」


一方男は、あからさまな
侮辱を受けても尚唇を噛
み締めるだけであった。