「治部少輔様。よくぞ御無事で」
与次郎は絶句した。
「そちも息災でなにより」
与次郎は領民を気遣う三成に伏礼し、思うところを述べ上げた。
「ここはもう村中に知れ渡っております。兵部大輔(田中吉政の官位)様の兵にも何れ知られましょう。どうか私めに隠れ家の世話をさせて下さいませ」
「そうか。ここも危ういか」
三成は執拗に生還を、願っている。保身を図っているのではない。このまま豊臣家が滅亡していくのを、何とか食い止めたい一心からである。大坂へ帰還し、再度家康に一戦を挑む肚だった。
「四百二十年前の頼朝公の例を心の発条(ばね)に、此処まで来たが」
鎌倉幕府の開祖源頼朝は一一八0年伊豆で平家打倒の挙兵をしたが、石橋山の戦いで敗北し山中に潜逃(せんとう)した。一命を取り留めた頼朝は安房へ逃れて再起し、遂には平家を壊滅させて武家政権を樹立した。武士(もののふ)にとって頼朝は公家から権力を奪取した武神である。三成は頼朝の例に肖(あやか)りたかった。
「殿。未だ諦めるには早すぎます。我が家の裏に、私の持ち山が有ります。其処ならば人目に触れず過せましょう。是非其処に御移りを」
三成は与次郎の申し出に、心を動かされた。善蓬の胸中は、解放された囚人の如くである。
「与次郎。御主は必ずや極楽往生できよう」
善蓬は与次郎を拝むと激賞した。三成の身柄を与次郎に委託したのである。三成を匿えば全村民は極刑に処せられる。善蓬には耐え難い重圧が圧し掛かっていた。
(与次郎に、村人の命預けよう)
善蓬は身軽になった。よしや己を含め全村民が斬刑になっても、最早善蓬のせいではない。
与次郎は絶句した。
「そちも息災でなにより」
与次郎は領民を気遣う三成に伏礼し、思うところを述べ上げた。
「ここはもう村中に知れ渡っております。兵部大輔(田中吉政の官位)様の兵にも何れ知られましょう。どうか私めに隠れ家の世話をさせて下さいませ」
「そうか。ここも危ういか」
三成は執拗に生還を、願っている。保身を図っているのではない。このまま豊臣家が滅亡していくのを、何とか食い止めたい一心からである。大坂へ帰還し、再度家康に一戦を挑む肚だった。
「四百二十年前の頼朝公の例を心の発条(ばね)に、此処まで来たが」
鎌倉幕府の開祖源頼朝は一一八0年伊豆で平家打倒の挙兵をしたが、石橋山の戦いで敗北し山中に潜逃(せんとう)した。一命を取り留めた頼朝は安房へ逃れて再起し、遂には平家を壊滅させて武家政権を樹立した。武士(もののふ)にとって頼朝は公家から権力を奪取した武神である。三成は頼朝の例に肖(あやか)りたかった。
「殿。未だ諦めるには早すぎます。我が家の裏に、私の持ち山が有ります。其処ならば人目に触れず過せましょう。是非其処に御移りを」
三成は与次郎の申し出に、心を動かされた。善蓬の胸中は、解放された囚人の如くである。
「与次郎。御主は必ずや極楽往生できよう」
善蓬は与次郎を拝むと激賞した。三成の身柄を与次郎に委託したのである。三成を匿えば全村民は極刑に処せられる。善蓬には耐え難い重圧が圧し掛かっていた。
(与次郎に、村人の命預けよう)
善蓬は身軽になった。よしや己を含め全村民が斬刑になっても、最早善蓬のせいではない。


