もうすぐ玄関口にたどり着くという時、どこかでカタン、という音がした。
誰もいない廊下に響く音だった。
ビックリして私はその場で立ち止まった。
「今の音……なんですか?」
思わず小声になって芦屋先生を見上げる。
先生もちょっと不思議そうに歩いてきた廊下を見渡していた。
しばらく2人で廊下に立ち尽くしていると、またカタン、と音が聞こえた。
「先生……」
お化けとかそういうのは信じないようにしているけれど、暗い学校でこんな音が聞こえてくると本当に怯えてしまう。
私の手は無意識に芦屋先生の袖を掴んでいた。
「誰か残ってるのかな」
先生は首をかしげて私を見る。
私も先生を見ていたので、近い距離で目が合った。
ほんの少し見つめ合ったあと、芦屋先生はいつも通りに穏やかな笑顔を見せた。
「そんなに怖がらないで。きっと誰かがいるんだよ」
「はい」
私は震える声で短く返事をした。
震えているのは、さっきの音が怖いからではなかった。
先生と見つめ合ったあの数秒が、私にはとても幸せで、胸が張り裂けそうになるほどだった。



