カチンコチンにかたまった私を見て、先生は吹き出していた。


「俺のことも先生じゃなくて名前で呼んでくれないかな」


「名前……」


私はハッとして先生を見つめた。


「さ、さ、さとし……聡……さん……」


懸命に口にした先生の名前。
初めて言った。


なんだか変な感じがした。


「覚えててくれたんだね」


先生はそう言ってまた笑っていた。


ずっと前に、私は先生の名前を間違って覚えていて「さとる」だと思い込んでいたからだ。


「もう先生と生徒じゃないから、これからは名前で呼んでほしいな」


私が硬直したまま「ハイ」と答えたので、先生はニッコリ微笑んだ。


鳴り止まない胸の鼓動が、もはや車の中に響き渡ってしまっているんじゃないかと心配になるくらい強かった。