私がぼんやりしているからか、玉木先生は
「ちょっと、なんとか言ってよ。私、てっきり付き合っちゃってるのかなぁなんて思って意地悪しちゃったんだから。もう、ほんとに最低だわ」
と恥ずかしそうに両手で顔を覆っていた。
「そ、そんな……。気にしないでください……」
とりあえず話を合わせて作り笑いを浮かべてみる。
まさかとは思うけれど、芦屋先生は私をかばうために玉木先生に嘘をついたんじゃないだろうか。
疑いをかけられていることは話していたから、それできっと嘘をついたんだ。
「4月にあった、私たち新任の教師の歓迎会でね、芦屋先生すーーーっごく飲んで酔っ払って。タクシーで家まで送った時、寝言で萩って名前を言ってて……。あなたの名前が萩だって分かって、つい付き合ってるんだと思い込んでしまったの」
玉木先生はそう言って、すぐにつけ足すように
「もしくはあなたが芦屋先生に片想いしてたりして、なんて思って。逆のパターンも想定してたけど、まさか本当にそうだったなんて」
矢継ぎ早に語る玉木先生の話を聞きながらすべての状況を飲み込んだ私は、急いでニッコリと笑顔を向けた。
「わ、私……好きな人いますから……」
「そうよね!普通、そうだよね!普通は同級生とか好きになるもんね!本当にごめんね」
「い、いえ……。全然……気にしてません」
懸命に取り繕った笑顔で応対する私に、玉木先生は気を良くしたのか
「それならいいの。じゃあ気をつけて帰ってね」
と笑って、颯爽と教室を出ていってしまった。