真司なりに私に気をつかったのか、ゆっくり手を離してくれた。


「ありがとう……保健室まで運んでくれて」


私がお礼を言うと、彼は首を振って


「倒れた時にあいつがすぐに萩のそばに行ったから、いても立ってもいられなくて。俺が運ぶって言っちゃったよ」


と微笑んだ。


芦屋先生も、あの時心配してくれていたんだ。


それなのに突き放すような酷い言葉を投げつけて、私は最低な女だ。


さっきの美術室でのやりとりを思い出していたら、不意に真司が私の目の前に手を差し出してきた。


そこにはずっと探していた、赤いとんぼ玉のストラップがあった。


ストラップの先がちぎれてしまっていた。


「あ、これ……」


真司からストラップを受け取って、自分の手のひらに載せる。


「運ぶ時に落ちたんだ。拾っておいたよ」


という真司の言葉を聞いた途端、また涙が堰を切ったように溢れ出した。


「ありがとう。本当にありがとう」


もういらない。
そう思っていたはずなのに。


やっぱりそんなの自分の本心じゃなかった。


だってこんなにも、愛しくて切ない。