「萩?」
と、声をかけられたのはそれから間もなくだった。
ぐしゃぐしゃになった顔を上げたら、廊下に誰かが立っていた。
真司の姿だった。
「何してんの?こんなところで。大丈夫?」
真司は慌てたように私に駆け寄ってきた。
彼は部活を終えたのか制服に着替えていて、手に汚れたジャージを持っていた。
「だいじょぶ」
泣きすぎて鼻が詰まって、うまく話せない。
そんな私を見て笑っていた。
「すごい顔になってるし」
「こんな時までからかわないでよぉ」
私は嘆くように真司の腕を力無く叩いた。
その私の手を、真司がギュッと握る。
「バカだな、お前。本当にバカだ」
真司の目が私をとらえて離さない。
私は急いで握られた手を振りほどこうとした。
でも、強い力で握られていたから、なかなか振りほどけない。
加速する私の心臓をよそに、真司はフッと笑って頭をゴツンとけっこう強く小突いた。
「いたっ」
思わず痛がる声が出てしまった。