こころ、ふわり












新学期が始まって、数日が経った。


私が気になっていた美術の授業の担当は、2年生の時と変わらず芦屋先生だった。


美術室へ移動しながら、何も知らない若菜がスケッチブックをめくりながらつぶやく。


「芦屋先生の授業って、楽しいけど無難だよねぇ」


「無難!?」


聞き捨てならない言葉に私がものすごい反応をしていると、若菜は不満そうに口をとがらせた。


「私はもっと、こう、抽象画みたいなのを描きたいの。芦屋先生が描く抽象画も凄いんだよ!でも授業ではやらないって。みんなが興味持ちそうなものだけ選んでやるって言うんだよ〜。つまんないわ」


「でもさぁ、そういうのを部活で描けばいいんじゃないの?」


と冷静な突っ込みを澪に入れられて、若菜がグッと言い詰まる。


私たちは始業式の日からずっと3人で仲良くやっている。


若菜は澪に徳山先生のことを聞いたりもしなかったので、彼女にとっても居心地がいいらしく笑顔が増えてきた。


「私は、芦屋先生の美術好きだよ」


無意識にそんなことを言ってしまって、ハッと我に返る。


若菜はまだ不満が残っているような顔をしていて、反対に澪は嬉しそうに微笑んでいた。


芦屋先生の美術の授業は、本当に好きだった。


穏やかな時間が流れて、先生と自然に話せる唯一の機会。


もう2ヶ月近く、先生とは2人きりで会っていない。


徳山先生と澪の件があってからは、連絡もほとんど取らなくなってしまった。