芦屋先生はここでやっと真司が美術道具一式すべてを忘れてきたことに気がついたようで
「あれ?全部忘れたの?」
と目を丸くしていた。
「なんだ。言ってくれれば貸したのに」
「じゃあ次からそうしまーす」
真司はちっとも悪びれた様子もなく茶化したように言っているのに、芦屋先生はまったく気にするそぶりもなく
「それじゃあ、今日やってもらうことを説明するね」
と授業に話を戻した。
「今日はデッサンをしてもらおうと思っています。モデルにするのは、隣の人の手。右手でも左手でもどっちでもいいから、見たままを描いてください」
隣の人の手……ということは真司の手。
無意識によっぽど嫌な顔をしていたのか、真司が私に向かって不満げに口をとがらせた。
「おはぎ、そんな心の底から嫌そうな顔すんなよ」
「そ、そんなことないよ」
ちょっと美術室内がザワザワし出したところで、芦屋先生が少し大きめの声で
「必ず今日中に仕上げて提出してください」
とつけ足した。



