「芦屋先生とは一緒に行動したりしないの?」


菊ちゃんがとても小さな声で耳打ちしてくる。


私は慌てて何度も首を振って、


「しないよ。誰かに見られたりしたら終わりだし……」


と答えると、菊ちゃんも予想していたのか「だよね」と座席のシートに背中をつけた。


「人目を気にしなくちゃいけないって大変だね」


その通りだった。


今でも忘れられない。
先月2人で行ったクロード・モネの展覧会での出来事。
弓道部の後輩に見られてしまったこと。


幸い、芦屋先生だと気づかれなくて済んだから良かったけれど、もしかしたら勘のいい子だったりしたらバレていたかもしれない。


あの時の、言いようのない不安感は二度と味わいたくない。


外で会わないで、先生の家とかでひっそり会ったりする方がいいのだろうか。


そこまでして会わなければならないなんて、悲しい。