チャイムが鳴ってすぐに芦屋先生は授業を開始した。


簡単に自己紹介を済ませたあと、出席をとる。


そして室内を見渡して


「事前に伝えてたと思うんだけど、スケッチブックと鉛筆と消しゴム。みんな持ってきてるみたいだね」


と言った。


私はチラリと隣の真司を見やる。
彼は平然とした顔で机の上に何も出さずに座っている。


芦屋先生は真司が何も持ってきていないことに気づいていないのか、授業をそのまま進めた。


「今日はデッサンをしてもらおうと思ってます」


そこまで先生が言ったところで、美術室に菊ちゃんが慌てた様子で入ってきた。


「あ、上田さんだね」


芦屋先生は菊ちゃんを見るなり、すぐに声をかけてくれた。


「話は聞いてました。好きなところに座ってね」


「はい、すみませーん」


菊ちゃんは小さく会釈をして、キョロキョロと室内を見回して私を探しているようだった。


ごめん!ごめん!
真司と隣になっちゃった。
ごめん、菊ちゃん。


私は全身全霊で両手を合わせて菊ちゃんに向かって謝るジェスチャーをした。


彼女は私の思いが分かったのか、手でOKサインを作ってニコッと笑うとすぐそばの空いていた席に座った。