こんな文句を言ったところで、芦屋先生を困らせるだけなのは百も承知だった。


単なる嫉妬。
やきもちだ。


「ごめんね」


こんなことで怒るなって言われると思っていたのに、芦屋先生はすぐに謝ってきた。


「断ってもいいって知らなかった。他の先生も生徒にもらったって言ってたし、断らない方がいいのかと思って。今、萩に徳山先生のことを聞いて初めて分かったよ」


先生は本当に本当に申し訳なさそうな顔をしていた。


「ちゃんと確認しておけばよかった。嫌な思いさせてごめん」


芦屋先生にそう言われて、自分のちっぽけな嫉妬心を心から恨んだ。


たしかに先生は去年の夏から私の学校に来たから、今回のことだって初めてだったのだ。


何も分からなくて当然だ。


それなのに、先生を責めるようなことばかり言ってしまった。


途端に罪悪感に襲われる。


「先生、怒ってよ」


私は思わず強い口調で言い放った。


「普通、怒るところなのにどうして怒ってくれないの?私の方が悪いのに」


「悪くないでしょ。俺だって同じ立場なら萩と同じように言ってたかもしれない」


先生の言葉は誰よりも優しくて、誰よりも私の味方だ。


自分が情けなくて、悲しくなって涙が出た。


「謝らせてごめんなさい」


「ちょ、ちょっと待って。泣かないで」


私が急に泣き出したから、先生は運転に集中出来なくなったのかチラチラと様子をうかがってくる。


「泣くようなことしてないんだから、気にしなくていいんだよ」