席についてから、菊ちゃんが遅れることを先生に伝えるのを忘れていたことを思い出す。


ガヤガヤ騒がしい美術室の中で、芦屋先生は大きな黒板に白い模造紙を広げて貼り付けていた。


「先生、芦屋先生」


私が声をかけると、芦屋先生は不思議そうに振り向いた。


「なんでしょう」


「あの、上田菊江さんが忘れ物を取りに行っているので少し遅くなります」


先生は私の言葉を聞いて、すぐに出席簿を取り出して菊ちゃんの名前を確認すると


「分かりました。ありがとう」


と言った。


ホッとして胸をなで下ろすと、隣で真司がボソッと


「お前、あぁいうのが好きなんだ」


とつぶやくのがなんとなく聞こえた。


「なにが?」


「なんでもない」


私は真司にもっと突っ込んで聞きたかったけれど、始業のチャイムが鳴ったので口を閉じた。