菊ちゃんと遊ぼうと約束した日、両親が出かけるからと彼女が家に呼んでくれたので、お言葉に甘えてお邪魔することにした。


何度も何度も行っている菊ちゃんの家は入り組んだ住宅街の中にあるのだけれど、もう難なくたどり着けるまでになっていた。


カラオケに行こうかと思っていたものの、菊ちゃんの家ならば誰かに聞かれることもないし問題ないだろう。


インターホンを押すと、菊ちゃんがドアを開けて顔を出した。


「萩!いらっしゃ〜い」


菊ちゃんはパーカーにデニムというラフなスタイルで私を招き入れてくれた。


「コンビニでお菓子買ってきたよ〜」


私がビニール袋にたくさん入ったお菓子とジュースを菊ちゃんに渡すと、彼女は嬉しそうに笑った。


「なんか私たちっていつも食べてるよね」


「仕方ない仕方ない。口寂しいだもん。何か食べてないと落ち着かないから仕方ない」


というよく分からない言い訳を2人でしながら、私は勝手知る家のリビングに入った。


すると菊ちゃんが


「今日は、ちょっと2人で作ろうと思って準備してるものがあるの」


と私をキッチンに呼んだ。


何事かと思って誘われるままキッチンへ行くと、なにやらお菓子作りのキットが並んでいた。


「明日バレンタインだから、2人でチョコ作らない?萩も思い切って明日の美術の授業のあとにでも芦屋先生に渡したらいいよ」


「あっ!」


私は思わず声を上げた。


バレンタインデーのことはもちろん分かっていた。


明日先生に渡せるか分からないから一応市販のものを用意していたけれど、まさか今日手作りすることになるとは。


「もし良ければ私も一緒に付き添うからさ、萩も頑張ろう!」


ガッツポーズをする菊ちゃんに、私は早速打ち明けなければいけないと両手を握って口を開く。


「あの、菊ちゃん!」


「何にする?生チョコにする?私はガトーショコラにしてもいい?」


見事に菊ちゃんは私の言葉を遮って、お菓子のキットを見比べていた。


また、タイミングを逃す。