「先生?」


「なに?」


抱き合ったまま先生に質問してみる。


「先生は、私に先生って呼ばれるの嫌ですか?」


「嫌じゃないよ」


名前を呼んでほしいと言われると思っていたから、私はちょっと意外な気がして首をかしげた。


「別に無理して呼び方変えなくてもいいよ。そもそも俺の下の名前、覚えてる?」


先生はまた私をからかっているんだと思い、自信満々にうなずいて見せた。


「覚えてますよ!さとる、ですよね?」


「さとし、です」


「えっ!?」


本気で間違って覚えていたから、慌てて体を離した。


芦屋先生はお腹を抱えて笑っていた。


「こんな夜中に笑わせないでよ」


「ご、ごめんなさい!出直してきます」


私が布団から出ていこうとすると、先生はそれを止めるように後ろから抱きしめてきた。


「罰として今日はこのまま寝よう」





私は覚悟した。


今日はもう眠れないんだと。


でもそれでもいいか、と密かに思った。


先生の髪の毛から香る石けんの匂いに包まれながら、ゆっくり目を閉じた。