私が反応しないからか、先生はそれきり声をかけてくることはせずに隣の布団に入ったようだった。


応えた方が良かったかな。
少しだけ後悔している自分もいた。


すると、芦屋先生の静かな落ち着いた声が隣の布団から聞こえてきた。


「おやすみ、萩」


不意にそう言われて、私の胸が熱くなった。


萩、と下の名前で呼ばれたのが初めてだったからだ。


「せ、先生!起きてます……私」


かぶっていた布団の隙間から顔を出すと、芦屋先生は驚いたような表情を浮かべていた。


「なんだ、じゃあ返事してよ」


「す、すみません……」


余計なことばかり考えてしまっていたことは内緒だ。


「今……萩って、呼んでくれたから……」


胸いっぱいの気持ちになりながら私が言うと、先生は少し笑って


「聞かれちゃったか」


と目を細めた。