別に私はどこでも良かった。
芦屋先生と一緒にいられるなら、どこでも。
2人で歩いていても、隣に先生がいることが信じられないやら恥ずかしいやらで、せっかくの展示物が頭の中に入ってこなかった。
他愛もない話でさえ私は嬉しくて、目が合うたびに笑ってくれる先生を永遠に見ていたかった。
私たちは周りから見たら恋人に見えているのだろうか?
もしかしたら仲の良い兄妹とかに思われているかもしれない。
ガラス越しに映る私たちの姿は、やっぱり自分が幼く見えて少し切なくなった。
「ガラス細工やりたいって言ってたね」
ひと通り館内を回ったところで、ガラス細工の教室が開かれている場所を先生が指さす。
「あそこに行ってみようか」
「はい!」
ワクワクしながらうなずいた時、私は自分の体の異変に気がついた。
咄嗟にお腹を押さえた。
その仕草を見ていた先生が心配そうに私の顔をのぞき込んできた。
「どうした?具合悪くなった?」
「先生……違うんです。あの……ちょっと待ってください……」
「え?」
不思議そうな先生の顔。
それを見た瞬間、私のお腹が空腹の音を上げた。
途端に芦屋先生は吹き出していた。
「お腹空いたならそう言ってくれればいいのに」
どうしてこういう時にお腹が鳴るのか、自分の正直な体が腹立たしい。
こんなに混雑していて騒がしいというのに、私のお腹の音は2人の耳に入るには容易なくらい大きな音だった。
前にもこんなことあったっけ。
あれは確か、私が貧血で倒れて保健室へ行った時。
その時も先生の目の前でお腹が鳴った。



