私が芦屋先生との待ち合わせ場所で待っていると、見覚えのある黒い車が近づいてきた。
先生の車だと分かって手を振ったけれど、車はいったん私の前を通過して少し離れたところで停車した。
「あれ?」
もしかして違う車だったのかと思っていたら、その車から芦屋先生が降りてきた。
「ごめん。帽子にマスクじゃ誰だか分からないよ」
先生はすでに笑っていた。
慌てて帽子を取って頭を下げる。
「す、すみません」
「大丈夫だよ。乗って」
「はい」
とりあえずいそいそと言われた通りに助手席に乗り込んだ。
芦屋先生はマスクをつけたままの私がよほど面白いのか、
「これから毎回そんな感じの変装で来る予定なの?」
と聞いてきた。
「おかしいですか……?」
「いや、そんなことないよ。でも今日は少し離れたところに行こう。変装しなくても済むようなところ」
先生はそう言って、車を発進させた。



