こころ、ふわり



どれくらいの時間、そうしていただろうか。


部屋のドアが開いた音で集中が途切れた。


「吉澤さん?まだいたんだ」


芦屋先生が少し驚いた表情で私を見ていた。


「今出ます」


慌てて持っていた画集を机に置くと、先生はふとその画集に目が留まったのか私のすぐそばまで来た。


先生からフワッと石けんの香りがした。


「モネの画集だね。そういえば模写の授業で、俺とまったく同じ絵を描いてたよね」


思い出したように言いながら、芦屋先生は画集を手に取ってパラパラとめくる。


「私、全然知らなかったんですけど、なんかこの人の絵って全体的に色合いとか淡い感じで……。素敵だなぁって思って」


と、ざっくりとした感想を言ったつもりだったけれど、先生は前にも見せてくれたようなとても嬉しそうな笑顔を私に向けた。


「俺もモネの絵はすごく好きなんだ」


好き、っていう言葉を口にしている先生を見ているだけで、なんだかドキッとした。