芦屋先生には、私が気をつかっているのがよく分かるみたいだった。
「気にしないで、って言ったでしょ。この会話、何回目だろうね」
彼はそう言って笑っていた。
「す、すみませ……あ、ダメだ。口癖になっちゃって」
また同じことを繰り返して言いそうになり、自分のバカさ加減に笑えてしまった。
脱衣所と洗面所を兼ねた場所の奥にお風呂場があり、私はそこに来たところでようやく緊張の糸が途切れて深いため息をついた。
やっぱり菊ちゃんの電話に出て、泊まらせてもらえるか聞くべきだったかな。
本当に今さらだけど、少し前の自分の考えを後悔した。
芦屋先生はどんな気持ちで「うちに来る?」と言ったのだろう。
私が生徒だから?
家に帰れなくて困っていたから?
他の子でも同じように言っていたのかな。
私じゃない、他の誰かのことも泊めるのかな。
芦屋先生が何を考えているのか、よく分からなかった。
先生の目はいつだって優しくて穏やかで、私はそんな目に見つめられるのが好きだった。
でも、時々分からなくなる。
先生はその目の奥に本心を隠しているような気がしてならなかった。



