芦屋先生はしばらく黙ったまま、フロントガラスの向こうを眺めていた。


菊ちゃんから折り返しの電話がかかってきてくれればいいな。


そんなことを考えているうちに、先生がようやく口を開いた。


「うちに来る?」


私は何を言われているのか理解出来ず、携帯を見つめていた視線を先生へと移す。


先生は私を見つめていた。


「え?」


かなりの間を置いて、やっと聞き返すことが出来た。


「ごめん。それしか思いつかなくて。嫌じゃなければ、の話」


そう言う芦屋先生の声が、激しい雨音に混ざる。


私が芦屋先生の家に行く?


言葉の意味が理解できた瞬間、私は今までにないくらい心臓が速く脈打つのを感じた。


早く話さないと、また困らせてしまう。