こころ、ふわり



━━━━━前に芦屋先生の車に乗った時は、これが最初で最後って思っていたのに。


職員用駐車場には芦屋先生の黒い車が1台だけ停まっていて、他の先生たちがみんな帰ったということが見て取れる。


傘が風で飛ばされることのないよう、しっかり支えながら駐車場を歩いて車の前まで行く。


「鍵開けたよ」


芦屋先生が黒い傘の間から私に声をかけてくれたので、私は助手席に乗り込んだ。


ほんの数十メートル歩いただけなのに、制服がびしょ濡れになっていた。


傘なんてなんの役にも立たない気がした。


強い雨が窓や車の天井をものすごい音で打ちつける。


「もう台風上陸してるのかな」


芦屋先生の服も雨でびしょびしょに濡れてしまっていた。


交通情報を聞くためなのか、先生はカーステレオをラジオに切り替えて、それから後部座席の方へ身を乗り出して何かを探している。


その時、私の顔のすぐそばに先生の顔が近づいてきたので、ドキッとしてしまった。