━━━私たちが偶然目撃した徳山先生。
この人のクールなイメージがこれから少しずつ変わっていくことを、私はこの時まだ知らない。
そしてそれはもうちょっと先の話だ。
夏休みが終わり、部活漬けの毎日が終わった。
久しぶりにクラスメイトが顔を合わせ、教室はいつも以上に賑わっていた。
宿題をやっていない男子生徒が慌てて頭のいい子のものを借りて丸写ししている姿があったり、真っ黒に焼けた子が海外旅行の自慢をしていたり。
各々で夏休みを楽しんでいるのがよく分かった。
私や菊ちゃんをはじめ、運動部に所属している生徒は夏休みもほぼ毎日学校に足を運んでいたため、久しぶり感が全くないのが正直な感想だ。
「おはぎ、おはよー!」
朝から早速いろんな友達に声をかけられ、私はみんなに「おはよう」とか「久しぶり」と返事をした。
「おはぎ、宿題してきたか?」
おはようの挨拶も無しに、私の机にやってきたのは真司だった。
手には宿題として出された数冊の問題集。
「え、まさか、宿題やってないの?」
私は嫌な予感がして肌が真っ黒に焼けた真司を見つめる。
彼もおそらく夏休みは部活漬けだったから、こんなに焼けているのだろう。
後ろの方の席で2、3人が慌てて宿題をやっているようだが、真司もその仲間のようだ。
彼にしては珍しく申し訳なさそうに両手を合わせて低姿勢で頼み込んできた。
「部活で忙しくてさ、な?頼むよ、おはぎ」



