「先生、萩が全然描けてないのにそれだけっすか?」
隣で真司が驚くような言葉を芦屋先生に言い放った。
私もびっくりしたけれど、先生もびっくりしたように振り向いて真司を見つめていた。
そんな私に構わず、真司は芦屋先生に言葉を続ける。
「俺と話してて全然描けないんですよ、こいつ。俺を離さなくていいんですか?」
とても挑発的な口調だった。
芦屋先生はしばらく真司を見ていたけれど、やがていつものように穏やかに微笑んだ。
「倉本くんが手伝ってあげればいいんじゃない?」
先生は話し方も表情も、いつもと少しも変わらなかった。
穏やかで優しい芦屋先生のまま。
私が真司と一緒にいても、何も感じないし何も思わない。
それを実感した瞬間だった。



