その時、後ろから芦屋先生が声をかけてきた。
「倉本くん、吉澤さん。進み具合はどう?」
まさか先生が来るとは思っていなかったので、私はまた驚いてのけぞってしまった。
今度は鉛筆まで地面に落ちる。
どうやら芦屋先生は、こうやって生徒たちのところを回って進み具合とか描き方の指導をしているらしい。
「順調でーす」
真司がわざとらしい敬語を使って芦屋先生にスケッチブックを見せる。
先生はよほど目が見えないのか、メガネの奥で目を細めながら真司の持つスケッチブックに近寄ってきた。
「お、すごいね。描けてる」
感心したようにスケッチブックを眺めていた芦屋先生は、私の手元にあるほとんど真っ白のスケッチブックをチラッと見たあと
「吉澤さんはもう少し頑張ってね。それじゃあ」
と、すぐにこの場を立ち去ろうとした。
え?それだけ?
いつもの先生なら、もっと的確にアドバイスをくれるのに。
私は急に胸が締めつけられるような思いに駆られた。
そうか。
きっと、先生はこの間のことで私の気持ちに気づいたのかもしれない。
だから距離を置こうとしているんだ。



