「だって急に近づいてきたから……」


私が文句を言おうとするのを遮って、真司は隣に座って


「俺もここにする」


と言った。


それはちょっと困るんですけど、と言いたいところだったけれど、何も言い返せなかった。


真司はきっと、私と話をしたくてここに来たのだと思ったからだ。


「なぁ、おはぎ」


私の隣でスケッチブックを広げた真司が、モミジの木を見上げたまま


「約束、覚えてる?」


と、聞いてきた。


「…………うん」


うなずく私に、真司は少し冗談めいたような言い方で


「本当に優勝ってすごいだろ?自分でもビックリしたよ」


と笑った。


「だから、ちゃんと言わせて」


あまり見ない真司の真剣な表情に、私は目を離せないでいた。


「俺とデートして」


少し寒いくらいの風が柔らかく吹いた。


私と真司はしばらく見つめ合う。


「私……、私は……」


なんと答えればいいか分からず、この場にふさわしい言葉を探す。


私は芦屋先生のことが好き。
だからデートなんて出来ないし、する資格もない。


ちゃんとそう言って断ろう、と思った瞬間、真司は不満そうに私の頬を軽くつねってきた。


「おい、今断ろうと思ってるだろ」


「ちょっと、離して」


「今度の日曜日、11時に駅前の広場で待ち合わせな」


何かを言う隙間もなく、真司は日時を決めてしまった。