始業のチャイムが鳴ってすぐに、芦屋先生が美術室へ姿を現した。


彼はいつも通りくたびれたシャツとくたびれたチノパンに身を包み、涼しい顔で「こんにちは」と挨拶をする。


いつもと違うところは、今日は芦屋先生はメガネをかけていた。


普段はコンタクトなのか、先生は黒縁のメガネをしきりに気にしながら


「じゃ、授業始めるね」


と黒板の前に立った。


「へぇ〜、芦屋先生ってメガネかけた方がかっこよく見えない?」


隣で菊ちゃんが私に話しかけてくる。


私は曖昧にうなずきながら、先生の様子を伺う。


あまり目が見えていないのか時折目を細めたりしているし、資料を見る時もかなり近づけて見ていた。


「今日は風景画にしようと思ってます。手元に配布した資料を見てみてね。色々技法が載ってるから」


先生に言われた通り、資料に目を通す。


風景画とひと口に言っても描き方に種類があるらしい。


「まぁ、面倒くさいって思う人も多いだろうから、参考までに。グランドに出て、好きな場所を好きなように描いてみてほしい」


芦屋先生はいつもそう。


なんでも好きなように、自分の思う通りに、自由に描いてみて、とよく口にする。


実はそれが一番難しかったりするのに。