「今日も三枝先輩、かっこよかったなぁ~」


ランチを食べ終わり、ジュースも飲み干した菊ちゃんがふと思い出したようにうっとりした目で「ねっ?」と私に同意を求めてきた。


菊ちゃんは、今サッカー部のキャプテンの三枝先輩に夢中だ。


うちの高校は私立で、運動部の活動には力を入れている。
サッカー部は県大会優勝・全国大会出場を目指している。


三枝先輩はエースストライカーで顔もかっこよくて、たいていの女の子ならみんな好きになってしまいそうなくらいのパーフェクトな人。


弓道場からサッカー部の練習がよく見えるのもあって、菊ちゃんはすぐに彼に憧れを抱くようになり今に至る。


「そ、そうだね」


かっこいいとは思うものの、ちっともときめかない私が無理やり話を合わせると、菊ちゃんは不満そうな声を上げた。


「全然心こもってなーい」


「だって女の子に人気ありすぎて逆に引くっていうか」


「なんでよなんで引くのよ」


この会話も私たちの毎度お決まりの内容だ。


「萩は、いいなって思う人すらいないの?」


菊ちゃんの質問を聞いた途端、脳裏になぜか芦屋先生が浮かんだ。


違う違う!なんで芦屋先生が出てくるんだ?


慌ててかき消す。


「なかなかいないんだよねぇ」


ガールズトークに花を咲かせていると、菊ちゃんがニヤニヤと何かを言いたげな笑みを浮かべてこちらを見ている。


「え?な、なに?」