私はなぜかちょっとためらってしまった。


出しかけた左手を引っ込めると、彼は首をかしげて引っ込めた私の手を引いた。


「このへんに貼るよ」


湿布を私の左手首にぐるっと貼る。


その様子を眺めながら、私はさりげなく手首越しに彼をチラチラ見た。


触れられている部分が熱くて、痛みも吹き飛びそうなくらいだった。


「先生。先生の名前は?」


ずっと気になっていた質問を投げかけてみる。


湿布を貼り終えた彼は、


「芦屋聡」


と答えるとイスから立ち上がった。


「あしやさとし?」


「なんかおかしい?」


私がボーッとしているからか、芦屋先生は不思議そうな表情をした。


慌てて首を振って否定する。


「いえ!つい」


え、「つい」?
「つい」ってなんだよ。


と、心の中で自分に突っ込んだ。


「名前、教えて」


「えっ?」


先生は湿布薬についていた透明なフィルムをゴミ箱に捨てながら私に聞いてきたが、一瞬何を質問されているのか分からなくなってしまって聞き返す。


「名前、君の。教えて」


よっぽど私は挙動不審のようで、芦屋先生は笑っていた。


「私の名前ですよね、すみません!吉澤萩です!2年生です!」


答えてから、何年生か聞かれてもいないのに答えてしまったことに気づく。


「吉澤さんね」


先生は私の名前を繰り返すと、ニコッと微笑んだ。


「2年生の担当だから。夏休み明けからよろしくね」