でも、私には芦屋先生を引き止める勇気も、この場を会話でつないで一緒にいる時間を長くさせる術も、なにも持ち合わせていない。


もっと、先生のこと知りたい。


聞きたいこともたくさんある。


私は芦屋先生のことを何も知らない。


何歳なのか、血液型はなんなのか、
身長が何センチなのか、誕生日はいつなのか、
好きな食べ物はなんなのか、
休みの日は何をしているのか。


知らないことを数え上げればキリがない。


1番肝心なこと。
先生に彼女がいるのかどうかさえ、知らないのだ。


「どうかした?」


考え込む私を不思議に思ったのか、芦屋先生は首をかしげた。


ハッと我に返る。


「い、いえ!私……降りますね」


慌てて助手席のドアを開けて車から降りた。