そして、泣き疲れた私はいつの間にか眠ってしまった。


深い眠りについてしまっていたようで、肩を何回か叩かれているのが分かった。


「吉澤さん。起きて」


耳元で芦屋先生の声が聞こえた瞬間、私はびっくりして勢いよく体を起こした。


「ご、ごめんなさい!寝ちゃった」


「起きる時のその勢いでこっちも驚かされるよ」


先生は楽しそうに笑っていた。


そういえば、以前渡り廊下で寝てしまって起こされた時も同じような状況だった。


「たぶんこのへんだと思うんだけど、どうかな?」


ルームランプをつけて手元の地図と、周りの風景を見比べている先生。


私は急いで窓の外に目を向けた。


見覚えのある住宅街だった。


「あ、私の家すぐそこです」


「ほんと?良かった。着いたね」


ホッと安心したように芦屋先生が地図を閉じる。


その姿を見て、私は寝てしまった自分を激しく後悔した。


2人きりになれることなんて、もう今後無いかもしれないのに。
もう二度と先生の車の助手席に乗れないかもしれないのに。
先生が運転している姿を見るのも、今日が最初で最後かもしれないのに。


怪我しているから家まで送ってくれただけで、こんな風にここまで優しくしてくれることはもう無いに違いない。