香取さんのBMWの中、私は勇気を出して話を切り出した。


「香取さん。今日はやっぱり帰ります」


「なぜ?」


「ちょっと疲れたので」


「ダメだ」


「え?」


「このまま帰ったら、藤堂蘭子の事とか、余計な事を考えて落ち込むんだろ?」


「………」


香取さんが言った事は図星なので、返す言葉がなかった。既に私は、惨めな思いでいっぱいだった。


蘭子さんから言われた“みすぼらしい女”の一言が、私の耳にこびり付いて離れなかった。


私は香取さんに相応しくない女なんだ。香取さんにとって、何のメリットもない女。


香取さんの側にいたら、誰にも認めてもらえず、蘭子さんのと同じ、たくさんの蔑みの目に晒され、惨めな思いをし続けるだろう。

そんなの、きっと堪えられない。