<レンside>

ハナを探して明野原へ。
しばらく歩くと黒い車発見。
嫌な予感がした。

案の定、いやぁ、と耳をつんざく金切り声に近い悲鳴が聞こえる。

……あれ?
この声……ハナのだ!

急いで車に近づき、ミツがハナの上にいる男の意識を奪う。
オレ……何も出番ねぇなぁ。
せっかく昨日修行したのに。
すると、ハナとミツに銃が向けられた。

チッ、もう一人いたのか。
オレの脳裏に今朝言われた「銃に注意」という言葉がよぎる。

……何が、銃に注意だよ。
オレだってFBIカガク捜査官のはしくれだ。銃くらい慣れてるって。
何せ向こうは銃社会だし。

「危ない!」

そう叫ぶとオレはハナとミツにシールド(内部の力の場を外部から遮断する空間)を作る。
これで、銃が暴発したりしても、被害を受けるのはオレだけだ。

……パァン!

白衣に広がる血を視界の隅で捉えながら、オレの意識は段々と薄れた。


意識が戻ったオレは、口をあんぐりさせる二人に明るく話しかけた。

「よっ!ハナ、ミツ。
帰国して早々心配かけたな。」

「バカ!
レンの大バカ!
何でこんなことするの!?
謝れば済む話でしょ?」

あのときは何も考えられなくて、ただ、ハナとミツを守ることしか頭になかった。

オレも昔ハナに色々助けてもらったから、オレが助けるべきだって、思ったんだ。

「オレはハナに昔から助けてもらってばかりだったから、借りを返そうと思っただけだよ。
って、なんで泣くんだよ。
泣かなくてもいいじゃん!
昔はハナ、めったに泣かなかったのにどうしたの?」

……気づいたら、ハナが泣いてた。
今日、泣くの何回目だよ。
昔はめったに泣かなかったのにさ。

いつから、ハナはそんな泣き虫になったんだ?独りのときは泣いてたのかなとか、考えてしまう。

服の袖でそっと彼女の涙を拭った。

ハナのお兄さんとか、彼氏の気分だよ、オレ。……こういうのいいなぁ。

オレは、なんでこんなこと考えてんだ?

そもそもは、オレがアメリカにいたときに"試供品"として手渡されたキカイを病院内の病室前に設置して、付属する小さいモニターで様子を見ていた。

ミツが泣いてるハナを見て抱き寄せてた。
しかも、だんだん力を強めてたし。

前までなら、相変わらずだなって、笑って様子を見ていられたはずだったのに。
今、この光景を見て妙にムカついている自分がいた。

「オレ、知ってるよ?
ハナ、さっきも泣いてたってこと。」

「な、なんで知ってるの?」

「外での二人の会話、全部聞かせてもらったからね。」

「レン、まさか、"盗聴"してたのか?」

「さっすがミツ。頭いいな!」

オレも、ハナを抱きしめてやりたい。
でもオレにはそんな資格はない。

オレは二人に、盗聴していたから外での会話も様子もわかってる。
そう伝えながら、例の機械を見せてみる。
この機械のこと、知らないだろうなぁ。

……でもハナはこれが"盗聴機"と"録音機"を合わせ持つことを知っていた。
しかも、オレの手から機械を奪って、底のほうを見ている。

そして、片口角を若干上げてオレとミツのほうを見る。
ハナがこういうドヤ顔をするときは、オレらが知らないことを知っているときだ。

……なあハナ。
オレらが傍にいない間に、何してたんだよ?
なんで、この機械のことを知ってるんだ?
その様子じゃ、もっと知ってるはずだ。

オレ、ハナの全てを知ってると思いこんでた。
でもオレ、いざこうしてみると、知らないことが多すぎる。