その後ろに、初めて見る年配の女性がいた。

年齢は……あまり推測でものをいうと失礼になるのでやめよう。

その女性は、オレたちがいるリビングから見て正面、オープンスペースの窓ガラスの真ん中に立って、声を発した。

「初めまして!
南 亜子です!」

実際にウェディングプランナーは私の後輩が務めます。
この場にいる人で今の私を例えるなら、それぞれのブライズメイドとアッシャーのリーダー、みたいな役割だと捉えてください!

これから、よろしくお願いします!」

しっかり、45度の角度で頭を下げた彼女。

その礼は誰もが見張るほど、綺麗だった。

南 亜子。

確か、伊達さんの妻の明日香さん。
彼女の母だったな。
彼女とは血の繋がりはないようだが。

明日香さんが伊達さんと結婚したことで、伊達さんの異母兄、柏木 康一郎さんと繋がりを持った。
今は少しずつ、柏木グループの後継者に康一郎さんが相応しくなるようにいろいろ取り計らっているようだ。

柏木グループの今後のために色々動いてくれている。
何しろ、レンが当主をすることになる、宝月グループとの業務資本提携を進言したのも彼女らしい。

「あら、由紀ちゃん。
久しぶりね!
横にいるの、彼氏さんかしら。

貴女にも、貴女のお母さんにもお世話になったわね。
その節は、本当にありがとう!
貴女たち2人も、挙式するなら、相談に乗るから言ってね。」

由紀ちゃんと仲よさげに話す亜子さん。

伊達さんから、亜子さんは、自分の妻である明日香さんを、昔はかなりメンタルにくる方法でいびっていたと聞いた。

その性根のねじ曲がった性格は、カウンセラーと精神科医のカウンセリングで穏やかな性格に戻った、と聞いた。

まさか、それに協力したのが、由紀ちゃんの母親なのか。

由紀ちゃんの母親、すごすぎるだろ。

亜子さんとメイちゃん、レンの3人から、大体の挙式プランを聞いた。

オレたちとエージェントルームの面々以外は呼ばない、身内と仲間だけの式になるようだ。

それに伴って、社会人にもなっていない人たちが気兼ねしないように、日本のようにご祝儀はなしになる。

代わりに、ウィッシュリストからそれぞれが予算に合わせてプレゼントしたいものを選んでプレゼントする形式になるという。
ご祝儀なんてあるのは日本くらいで、欧米やヨーロッパではこれが一般的なのだそうだ。

確かに、これなら現ナマを貰うよりは実用的かもしれない。
ご祝儀はいくら包む、だの、マナーがどうの、なんて堅苦しいものはなくてよくなる。

さらに、贈る側にとっても、選ぶ楽しみが出来るのはいいことだ。
さらに、多少高額な品でも、皆でお金を出し合って合同で購入出来るのもメリットだろう。

オレも、いつかハナと、挙式をすることになったその時は、取り入れさせてもらうか。

「このウィッシュリスト、誰かが一度選んだものは購入出来なくなります。
この場で発表したのは、皆さんに異論がないか確かめたかったからです。

実際のウィッシュリストは、オレとメイと、今横にいらっしゃる亜子さんとも相談の上で、私の学校行事等が落ち着くタイミング、今年の冬に送付する予定です。

お待たせしますが、よろしくお願いします。」

レンがそう言って、頭を下げた。

堂々と背筋を伸ばして話す幼なじみの姿は立派で、隣でずっと見てきたオレとしては感慨深かった。

式の形は、3割日本式、7割アメリカ式、でいくようだ。
お色直しと新郎新婦へのスピーチ、二次会くらいが日本式。
それ以外は、アメリカ式。
ずっと式当日にレンとメイちゃんが高砂にいてマトモにオレたちと話せない、なんてことはなく、気軽に話せるようだ。

また、式が終わったら、そのまま歓談しているもよし、二次会のセッティングのために抜けるのもあり、何でもOKの自由なものだ。

そんな感じの式もいいな。

日本の式は、伊達さんと明日香さんの挙式で体験済みだ。
式に参列した後にハナを抱いたら、1回でくたびれたので、相当疲れていたのだろう。

どんな式になるか楽しみだ。
もちろんオレも、できることがあれば喜んで協力する。