それから、私たち演劇部は、8月頭にある演劇祭に向けて猛練習の日々だった。
演劇部なのに、朝練まであった。

文化部なのに、ハードすぎない?


「緊張とハードスケジュールで、体調崩してない?
大丈夫?」

私を心配してくれる彼。
胸がキュンとしたのに……気付かないフリをしていた。
ミツと演劇でラブシーンをやるからだと、勝手に思い込んでいたんだ。

倫理上、抱き合うシーンだけだが、それでも緊張した。

そして、演劇祭当日。
私たちの通う光明中学校はいきなりトップバッター。
くじ運が悪いのは、くじを引いた矢榛くんに責任転嫁をさせてもらう。

出演者のドキドキ感はハンパなかった。

出番を終え、休憩と午後の部が終了した後、結果発表。

部員全員が、目をつぶって両手を合わせる。

ドラムロールが邪魔だよ。
本当の心臓の音と重なって聞こえるんだもん。


「栄えある優勝は……光明中学校です!!!」

聞き間違いかと思った。
だけど、号泣している先輩を見て、現実なんだと分かる。
私まで、泣けてきた。

優勝できたのは、先生が舞台裏で、私たちに掛けてくれた言葉のおかげだ。

「緊張していいのよ。
緊張しちゃだめ、って思うと、脳が余計に緊張していいと思いこんで、緊張するから。
緊張しなさい。
すると、興奮が瞳に反映されてキラキラ輝くの。

それは、舞台上であなたたちを何倍にも魅力的にしてくれるから。」

そのおかげで、自信を持てた。

先生の奢りでカラオケをした。

ナナと矢榛くんなんて、歌うのはラブソングばっかり。
早く付き合えばいいのに。

私たちは残りの夏休みを満喫した。
もちろん、宿題もしっかりやった。
私の家で、ナナと2人で量の多い宿題をこなしたりしたから、バッチリだ。

そして、彼女もエージェントルームの一員になりたいというので、彼女を連れて行ったこともあった。

彼女は、可愛い洋服が好きで、アパレルショップで店長の経験もある、洋服のパタンナー、南 明日香《みなみ あすか》さんと、あっという間に仲良くなっていた。

夏休み終了3日前の日、ミツから近くの高原までサイクリングに行かないかと誘われた。

もちろん了承した。

ミツが小さい頃、家族でよく来ていた高原らしい。
御劔家の一員になれたような気がして、ちょっと嬉しかった。

この日、私の記憶に関わることを知るとは、思いもしないまま、自転車を走らせた。