ようやく、日本に到着した。
フライト、長かった……。

今は……6月22日の夜7時だ。
いい時間になってしまった。

空港を出ると、1台のリムジンが堂々と停まっていた。
目立つな、これ。

恭しく頭を下げて、運転席から武田が颯爽と現れた。

「お乗りくださいませ、旦那さま。
学校から提供されている寮に向かいますよ。
失礼ながら携帯電話をお貸しいただきたく。

どうやら、旦那さまの幼馴染みの方たちが最寄り駅で時間を潰しているようです。
寮に着いたら連絡がほしいと申しておりましたので。

大層仲がよろしいようで、アメリカでの旦那さまと奥様を彷彿とさせます。」

あ。
そういえば、飛行機に乗る、って連絡入れたんだった。
宝月グループのこと、メイと婚約したこと。
伝えるべきことは山のようにあるから、待っててほしいと連絡したんだった。

……浮かれすぎだな。
しっかりしないと。

車は2時間ほど走って、学校の寮に着いた。
昨夜のパーティーの疲れは取り切れていなかったらしい。
気がついたら寝てしまっていたようで、武田に起こされた。

「お疲れだったのでしょう。
なにしろ、いろいろありすぎましたものね。」

「すみません、武田さん。
寝てました?」

「ええ。
とても心地よさそうにお休みになっていらっしゃいました。
起こすのは忍びなかったのですが、到着されましたので。」

「……悪い。
ハナとミツには連絡したのか?」

武田は携帯を差し出す。

「私がしようと思いましたが、やはりここは旦那さまが直接されたほうがよろしいかと思いまして。」

オレが武田に、自分の携帯電話を貸した意味、なかったよな。
……話が早そうなミツに連絡する。

彼の番号を発信履歴から探して掛けると、ワンコールで電話に出た。

『レンか。
今、そちらに向かっているところだ。
本人がいないんじゃ、鍵もないだろう。
外でずっと待つのも、迷惑になるしな。
兄さんから話は大方聞いている。

何かあったら連絡しろ、とこちらは言ったはずだ。
宝月グループの後継者になったことも、突然弟の存在を知ったことも、何かあったの部類に入るのではないか?』

「悪い。」

そうか。
ミツの兄さんの智司さんと巴姉さん、そういえば婚約間近くらいな感じだったな。
そのパイプで話が伝わっているわけか。

『まぁ、相談していたら事を運ぶのに行動するより時間を割かれてしまうこともあるからな。
今回は賢明だったんじゃないか?』

そんなことを話していると、電話の主は急に変わった。

『そうそう!
プロポーズしたいなら理想の台詞とか教えられたのに!
でもまぁ、おめでとう!

あ、レンみっけ!
電話切るねー!』

ハナめ。
言いたいことを一方的に言ったと思ったら、オレを見つけたと言って電話を切るとは。
相変わらず自由奔放だな。
だからこそ、お堅く考えがちなミツの弱点を補い合える良いカップルなのだろう。

ふと前を見ると、ハナがこちらに大きく手を振りながら歩いて、いや走ってきた。

「レンー!
おかえり!そして婚約おめでとう!
プロポーズの瞬間のムービー、撮影してたの柏木室長だったんだね!
編集されて、エージェントルームのモニターに1日1回、流れてるよ!」

オレにいきなり抱きついてきたもんだから、少しよろける。
そして、プロポーズの様子がエージェントルームのモニターに流されてる、だと?
まさか、そのためにムービー撮ったな?

「ハナ、やめろ。
本当にレンが抱きついて来てほしい相手は、お前じゃないはずだ。」

ハナの肩を掴んで止めるミツ。
ハナの顔が赤いのは、気恥ずかしかったのか、はたまたミツに耳元で何かを言われたからか。

「立ち話もなんだし、中に入れよ。
執事の武田のことも紹介したいし。」

オレは、数日ぶりに寮の鍵を開ける。

綺麗に整頓されているわけではないが、雑然とはしていない部屋。

空いているところに座るよう、2人に勧める。

オレの執事と幼馴染み2人が座って自己紹介をしている間に、冷たい紅茶を出す。

「で?
どうした。
なんでここに来た?」

2人は、エージェントルームで帳 奈斗と浅川 将輝についてもっと情報を集めようとした。
しかし、何も情報が出てこないうちに中間テストに忙殺されてしまったという。
しかも土曜日の午前中まであったというから驚きだ。

それは、教師のスケジュール管理が下手なだけなのではないか。

武田が少々お待ちを、と言って寮から出てすぐに戻ってきた。
戻ってきた武田は、A4用紙25枚ぐらいの資料を手にしていた。
これを車に置いてきていたらしい。

そこには、帳 奈斗と浅川 将輝の情報がこれでもかというほど書かれていた。

……怖っ。
人間興信所かよ。