コンコンとノックの音がして、蓮太郎の声がした。

「準備できたか?
行くぞ?メイ。」

「うん!」

そうは言っても、蓮太郎の祖父母の家って、私の家の5軒先なだけなのよね。

豪華な家。豪華な黒い外観はニューヨークとは思えないモダンな作りで、まるで家を守る要塞みたい。

エントランスはツートーンカラー。
正面にあるアクアリウムが、訪問者の心を和ませる。

温泉が好きな祖母が希望したため、3階には檜風呂も備えている。

まさに豪邸という感じだ。

リビングに隣接した中庭には、観葉植物が多数置いてある。

「こんにちは。」

「おじゃまします……」

「あら!
メイちゃんに、蓮太郎じゃない!
久しぶりね!
蓮太郎も、帰って来たなら顔くらい見せなさいよね?」

中庭に出てきた蓮太郎の祖母の奈美《なみ》さん。

蓮太郎の祖父母は御年80歳なのだが、そう見えないくらい元気だ。
巴さんも、結婚の話を持ってきたというし、吉報は人を若々しく、元気にさせるのだろうか。

「ごめんごめん。
ちょっといろいろあってさ。」

「もう……巴も来てるのに。」

そう言って寂しそうな目をする蓮太郎のお祖母さん。
中庭に面したリビングから私に会釈するのは巴さんだ。

「あ!
巴さん!
こんにちは!
先日はお世話になりました!」


「あら、どういたしまして。
でも、お礼を言うのはこちらの方よ。
久しぶりに貴女と話せて、久しぶりに若い自分に戻れた気がするわ。」

蓮太郎と巴さんは暫し無言だ。

「巴と蓮太郎、久しぶりの再会なんだから。
ゆっくり話してきたらどうだ?」

蓮太郎の祖父、眞人《まさと》さんはそう言って、2人の背中を押す。

「そうだよ!
話して来るといいわ。
巴が先か蓮太郎が先か。
私としては長男の花婿姿を先に見たいんだけどねぇ。
独身で会えるのはもうあまりないかもしれないんだよ?」

祖母の言葉に、私は顔を真っ赤にする。
祖父母の家の後に、連れて行きたい場所があるという蓮太郎の言葉に、否が応でも期待してしまう。

「じゃあ……久しぶりに話そうかしら。
ねぇ、蓮太郎?」

「姉さんが、そう言うなら。」

「書斎でも和室でもいいよ。
空いているから、好きにしなさい。」

祖母が話しかけると、巴さんがにこやかな笑みでありがとうと言う。

「ごめんな、久しぶりなのにゆっくり話せないで。
メイ……オレのガールフレンドと会うのも、久しぶりだろ?
少し話していてくれ。」

さらりと、ガールフレンドという単語が聞こえた気がした。

もしかして、やっぱりそういうこと?
私、蓮太郎の本命の女の子……というか、もう彼女、ってことなの?

蓮太郎と巴さんが無事に仲直りできるように祈りながら、私は蓮太郎の祖母が紅茶をコーヒーを入れてくれたので、ありがたくいただいた。