怖い夢を見てしまって眠れないというメイ。…彼女のその言葉を聞いて、オレはホットミルクを用意した。

昔、今のメイと同じように怖い夢を見て泣いてしまったオレを宥めた母さんが、オレによく飲ませてくれた。
それがホットミルクだ。
『安眠効果があるのよ』と言って、少し人肌程度の熱さにしてくれたことを覚えている。

それを思い出しながら、ホットミルクを作る。

「こういうときはこれが一番。
身体を温めると少し気分も落ち着くはず。」

「ありがと、蓮太郎。
……美味しい。」

人肌程度のほうが飲みやすいようだ。4分の1ほど口に含んで、にっこり微笑んだ。

作った甲斐があった。

……ふと思い出した。
村西さん、ちゃんと取ってきてくれたかな……

メイの誕生日ケーキを、まだこっちにいるときに予約だけしておいた。
村西さんに取ってきて貰うよう、日本に帰る間際に頼んでおいたんだ。
そのことを、耳打ちで伝えようとした。

「村西さん」

「……安心しろ。
ちゃんと取ってきたよ。」

さすがは村西さんだ。
忘れられてやしないかとヒヤヒヤした。

「メイ?
ケーキあるけど。
……食欲あるなら……食べる?

まぁ、かなり甘いから、深夜に甘いもの食べると太るとか言うなら、今度にしよ。」

メイは太ってないけどな。
太ってはないが、いかんせん細い。

昨日、メイを抱きしめたときも、力加減に苦労した。
危うく力を入れすぎると、華奢な身体の骨が折れかねなかった。

今度にしよ、と言ってはみたが、今食べて太ってくれたほうがいい。

もし、何かのタイミングでメイと身体を重ねることになったときも、抱き心地に影響する。

何でケーキ?って、顔に書いてある。
きっと、今メイの脳内はハテナマークで埋めつくされていることだろう。
可愛い……。

「ん?
だってメイ……2日前、誕生日だっただろ?
オレが帰ってこれないと困るから、村西さんにお願いして取ってきてもらったの。
オレが日本に帰る間際、予約だけしておいて。」

「……ありがとう。
蓮太郎と村西さんの心遣い、とても嬉しいわ。
……だけど、今はあまりお腹が空いていないから、後で皆で食べることにしましょう。」

メイが小さくだが微笑んでくれた。

やっぱり、メイには泣き顔より笑顔が似合う。

「……じゃあ、せっかくだし、皆でwiilやろう!
たまには童心に返ってゲームもいいだろ。」

童心に返るって……

オレたちはまだ未成年だからいい。
あんた、いい歳のオッサン、いや、オジサンと呼べる年齢だろ……

村西さんの提案により、3人でTVを囲んで、wiilをやる。

「ゲーム、体調的に大丈夫?
吐き気したり、頭痛がしたらストップかけていいから。
メイの体調までは、推し量ってしかやれないからさ。
それが心苦しいんだけど。」

「ありがと、優しいのね、蓮太郎。」

「そこ、イチャついてるな?
準備できたぞ?」


照れながら正面を見ると、赤い帽子を被った土管工が画面に映し出されていた。