春休みを終えて、桜が舞う季節。
高校2年目の春を迎えていた。
この春で、レンと過ごす学生生活は最後になるのだ。

私たちは、クラス替えで見事に分かれてしまった。
私とミツとレンは3組だけど、愛実は4組。
麻紀と友佳は7組。
一成くんは5組で、真くんは6組だ。

「あーあ、一成と離れちゃったな。」

「真と離れちゃった。
麻紀、つまんない。
ハナ、いいなぁ。」

友佳も麻紀も、私をジト目で見ながら言う。
そんなに、私が羨ましい?

「皆!
転校生、を紹介するぞ!」

その転校生は、昨年の文化祭で見た顔だったからだ。

「新澤 和貴《にいざわ かずき》です!
よろしくお願いします!」

「あれ?
和貴くん、どうしてここに?」

和貴くんに明るく話しかける私の肩をぐっと抱いて、ミツが和貴くんに話しかける。

「コイツ、オレの彼女だから。
よろしく。
あ、オレは御劔 優作だ。」

自己紹介もそこそこに、ミツは和貴くんに対してのライバル心むき出しのようだ。

あれは、鈴原先生から、いい加減にミツと私をくっつけてやりたい、ということで、私に告白する演技をしたのだ。
そのことをミツに話すと、彼は決まりが悪そうに和貴くんに会釈した。

「そ、そうだったのか。」

「……宝月 蓮太郎だ。
オレは気付いてたぜ?
なんせ、その手法は、文化祭が終わった日の夜にオレも使ったからな。

本当は、ハナの友達の愛実ちゃんが気になってるんでしょ?」

レン、するどい。

しかし、クラスが違うとアピールできないのかなかなか関係は進展しなかった。

……そして迎えた2回目の体育祭。
和貴くんは初めてだ。

私は、借り物競争に出る。

……早めにグラウンドに向かおうと、愛実と共にを歩いていると、いきなり背後から口を押さえつけられて、どこかに連行された。
愛実はピロティに連行されたようだ。

「愛実、逃げて!」

「ハナ!
……嫌よ。
由紀と一緒。
こういうの、一番嫌いなの。
ハナだけじゃなくて、私も乱暴する気?
どういうつもりか知らないけど、いずれ助けはくるわ。
こんなことしても無意味よ!」

懐かしい名前が愛実の口から滑り出た。
さすが、小学校の時の友人。
私を連行した女の先輩の取り巻きに、愛実も腕を掴まれる。

その時。

「篠原さんに触るな!」

愛実を篠原さんと呼ぶのは、転校生の和貴くんしかいなかった。

和貴くんは、愛実の腕を掴んだ男の間に入り、彼女に触れさせまいとしていた。

愛実は、その人が文化祭で見た顔だと気付いたようだ。

「卑怯な真似、俺も嫌いなんだ。
この手、離してくれない?
彼女に何かしたら、容赦しないよ。」

当の私は、誰も居ない空き教室に連れ込まれて柱に追い詰められていた。

柱の近くの窓から見えた小さなスズメに話しかけて、助けを呼んでもらうように頼んだ。
これで、とりあえず誰かは来てくれるはず。

私を、下衆な目で、上から下まで舐めるように見る。

「……いい女だな。」

「お前のあられもない姿を見せつけてやるか。
お前の大事な男に、目の前でな。」

その視線は、かつて、中学生だった頃に感じたものと同じだった。

……嫌だ。
もう、二度と、あんな目に遭うのは勘弁だ。

怖くて、ギュッと目を閉じた。

私、もうミツにしか抱かれたくないの……!