「先輩こそ、なんで逃げるんですか!」

「灰音ちゃんが追いかけてくるからでしょー!」

追いかける前から逃げてたじゃないか。

心の中でそんな突っ込みを入れつつ、本気走りになりだした先輩をまた追い掛ける。

だけどやっぱり男女の差は大きい。



しかも相手は学園の王子様。

そこらへんのチャチなモテ男とは違う。
頭脳明晰の無気力王子だけど、運動神経は抜群だ。

軽々走っているように見えるのに、その速さはすごくて、とても追いつけない。


……だんだんイライラしてきたんだけど。


気まずいのはわかる。

できれば会いたくなかったのもわかる。


でもそれはあたしの感情であって、先輩は避けられる立場じゃないといけないんじゃないだろうか。

「あぁじゃあもういいです。会いたくなかったのはあたしも一緒ですから」

ポツリ、と。

溜息まじりに呟いただけなのに、先輩は動きをピタッと止めた。