「海が嫌いになった理由を話してくれたんです。宝井さんが本当に、とても傷ついてると分かって、何だか放っておけなくて」
それで一夜を共に過ごされたのか……
そう思った時に、淑乃様のお言葉に思わず耳を疑った。
「小さい子みたいだなぁ……って。これって母性本能だと思います?」
小さい子?母性本能?
思いもよらない展開に、即答できずにいると
「不安そうにしがみついて、全然離れてくれなくて。背中や頭を撫でないと、いつまでも寝ないし。寝てるからってベッドを離れると、すぐに探しに来るんですよ?いっつも偉そうでエロ王子なのに、何か可愛いって言うか、守ってあげたいなーって……藤臣さん?どうされたんですか?」
淑乃様がお話になられた、あの晩の真相にただただ呆然とする。
突然、淑乃様がバツの悪そうな表情をされた。
「ヤだ、私ってば……いくら藤臣さんが事情を知ってるからって、こんなペラペラ喋っちゃって……」
そして上目遣いで見上げられると
「今のお話は、藤臣さんと私の2人だけの秘密ってことにしてもらえませんか?」
と小首を傾げて、哀願するようにまっすぐに見つめられる。
このように愛らしくお願いされては、昨夜決意したばかりの滅私奉公など、簡単に揺らいでしまう。
唯一無二の主人であり、愛する少女の純潔が守られていたこと、そして『2人だけの秘密』という甘美な響きに、心が浮かれていく。
「淑乃様のお望みとあれば、必ずお約束いたしましょう」
最上級の笑顔と共に、私は淑乃様に誓うのだった。