何故か宝井の部屋から、淑乃様に2人分の朝食を運ぶよう、ご指示をいただいた。
脳裏をよぎる最悪の状況を振り払い、すぐに厨房へ手配した朝食をワゴンへ載せ、宝井の部屋へ向かう。

「失礼いたします」
ノックと共にお声をかけると、淑乃様のお声に招き入れられる。
対面式のソファーセットに、並んで座られる淑乃様と宝井の間に流れるただならぬ空気に、目を逸らしたくなる衝動を抑え、給仕に徹した。
不自然に思われなかっただろうかと心配したが、幸か不幸か淑乃様も宝井も、お互いしか見えていない様子だった。

恐らく…いや確実に、淑乃様は宝井と一夜を過ごされたのだろう。
昨夜、ナイトティーをお持ちした時にはお部屋にいらしたから、この部屋へ来られたのはその後だろう。
お仕えしている主人の動向を把握できないとは、執事失格もいいところだ。

ましてや、主人に対して恋愛感情を抱くなど、もってのほかだ。
給仕を終え、速やかに宝井の部屋を後にした。