「いいえ、私は征一さんを諦めたりはしません」

「よく言ってくれたね。それなら何も問題はないんじゃないか? なあ、母さん」

「そうよ。まあ社交のマナーとか、いくつか習っていただく事はあるでしょうけども」

「でも…」

「納得してもらえんかな?」

「父さん、裕子が気にしているのは、家柄やその…経済事情の違いなんですよ」

「分かっておる。それも含めて問題ないと、言ったんだ。

家柄と言うが、神崎はおれの祖父が一代で財を成したんだ。戦後の高度経済成長の最中にな。
いわゆる由緒ある家柄なんかじゃないぞ。

あとは経済事情? つまり金だな?
おれはひとさまの金をあてにした事なぞ一度もない。銀行は別だがな。
金は自分で稼げばいい。嫁や妻の実家に頼るようじゃ情けないだろ?」

「分かりました。父さんを見直しました。しかし神崎の人間が全て父さんのような人ではないでしょう?」

「確かにな。中には不心得者もいるだろう。しかしそんな輩から裕子さんを守ってあげる事が、おまえの役目じゃないのか?」

「はい、もちろんそうします」

「征一さん…」

「裕子、もう何も心配するな」

「はい」

「この流れでプロポーズしちゃえば?」

「母さん、ちょっと待ってくださいよ。一生に一度の事だから、最高のシチュエーションでしたいんだ」

「はいはい、さっさとお願いね」

「あっははは」



その日も私は征一さんのマンションにお泊りし、二人で甘い週末を過ごしたの。