「同伴者がいるとは聞いてなかったぞ」

低い声。征一さんの声も低いけど、お父様のは更に低く、相手に有無を言わせぬ威厳を感じる声だった。

「すみません。この娘が電話で話した女性です」

「うむ」

「経理部で働いている西野裕子さんです」

「西野裕子と申します。突然お邪魔して申し訳ありません」

ペコリとお辞儀をした。

「俺の父親だ」

「よく来てくれたね。息子が世話になっているそうで、すまないね」

「そ、そんな、お世話になってるのは私の方です」

今のは、お父様の皮肉?

「こっちは俺の母親」

「はじめまして、西野裕子と申します」

「裕子ちゃんね。可愛らしいわね。失礼だけど、おいくつかしら?」

「24歳です」

「まあ、そうなの? ワタシはてっきり香織ちゃんと同い年くらいかと思ったわ。あ、香織ちゃんというのは姪でね、二十歳なのよ」

「香織さんには、お会いした事があります」

「あら、そうなの? 征一、こんな可愛いガールフレンドがいて、どうして早くお連れしなかったの?
あら、ごめんなさい」

お母様は一瞬窓側の女性に目をやり、肩をすくませた。
お母様は、ずいぶん明るい方らしい。

「えっと、こちらは高島麗子さんだ」

「高島麗子です」

「西野裕子です。よろしくお願いします」

私がペコリとお辞儀をすると、麗子さんは優雅に、ゆっくりとお辞儀をした。

「麗子さんは………」

「征一の婚約者だ」

征一さんが言い淀んでいると、お父様がボソリと言った。
やっぱりね。予想していたので、特に驚きはなかった。

「こいつは神崎修二。俺の弟だ」

「西野裕子です。よろしくお願いします」

「修二です。よろしくね、裕子ちゃん」

うわ、軽い。気難しい顔してたのに、中身は違うのね。きっと、お母様似だわ。

「さあ、座りなさい」

ふ〜。緊張したなあ…