『楓』と書かれた木目のドア。

「ここだ。リラックスしろよ。と言っても無理か」

私はコクリと頷き、ゴクンと唾を飲んだ。

征一さんは軽くノックしてドアを開いた。
部屋の名前で和室を連想したが、そこは広い洋間だった。

私は征一さんに肩を抱かれたまま、部屋の奥に座る男性に向かっている。
髪はロマンスグレー。目が征一さんにそっくりな初老のその男性は、征一さんのお父様だろう。

その隣で、柔らかな表情で座っている女性はお母様?

窓を背にして二人の男女が立っている。

女性は整い過ぎとも言えそうな美人。でもその顔には全く表情がない。まるでマネキン人形のようだ。

その隣には、私と同世代くらいの男性が立っている。征一さんとは似ていないが、弟さんだろうか。なぜか固い表情をしている。

私は緊張のために膝がガクガクする。征一さんに肩を抱かれていなければ、まともに歩けなかっただろう。