「だめ。今夜はゆっくり寝たいから、帰って」

「有紀子、何があったんだよ?」

「別に…」

「嘘だ。有紀子は俺に何か隠してるよな? さっきから、下手な演技までして、何を隠したいんだ?」

「何もないって言ってるでしょ! もう帰って」

「有紀子!」

私は翔に肩をぐっと掴まれた。

「俺を見て」

「嫌」

「有紀子…」

「嫌って言ってるでしょ! やめ…ん」

翔に無理矢理キスされた。

段々と深くなるキス。
翔の乱暴な舌が私の唇をこじ開け、入って来る。私も舌で応戦し、互いの唾液を貪るように吸い取り合った。



「有紀子、何があったんだよ?」

「何も…」

「なら、なんで泣いてるんだよ?」

「泣いてないもん」

「じゃあ、これは涙じゃないのかよ?」

翔は、涙で濡れた私の頬を舌でペロッと舐めた。

「しょっぱいけど?」

「お願いだから、帰って」

「……分かった。今夜は帰るけど、今度はちゃんと話してほしい」

「いいわ。今度ね」

『今度』は…もう、ないのよ、翔。


肩を落として帰る翔の後ろ姿を、私は窓からずっと見ていた。

ごめんね。
さようなら、翔……